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『解約できない』は違法? 不本意な契約を結んだ場合の対処法とは
監修者:萩原達也 代表弁護士(東京第一弁護士会所属)消費者による解約を制限する契約条項は、無効となる可能性があります。不本意に締結してしまった契約を解約したい場合は、弁護士のアドバイスを受けましょう。
本記事では、「解約できない」と書かれている契約が違法なのかどうかや、不本意な契約を締結してしまった場合の解約方法などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、どんな事情があっても「解約できない」契約は違法の可能性あり
事業者は、商品やサービスを消費者に解約させないため、契約書に「どんな事情があっても一切解約できない」という趣旨の条項を定めるケースがあります。
しかしこのような条項は、消費者契約法によって無効となる可能性が高いです。
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(1)消費者契約法により、一切解約できないようにする条項は無効
消費者契約法は、消費者が事業者よりも弱い立場に置かれ不公平な契約を結ぶことを防ぐべく作られた法律です。
この法律では、個人(消費者)と事業者が締結する契約(=消費者契約)についてのルールがいろいろと定められています。
そのルールのひとつとして、「消費者の解除権を放棄させる条項等の無効」があります。
以下のいずれかに該当する消費者契約の条項は無効です(同法第8条の2)。- ① 事業者の債務不履行(契約の内容を行わないこと)により発生した消費者の解除権を放棄させる条項
- ② 事業者の債務不履行により発生した消費者の解除権の有無について、当該事業者に決定する権限を付与する条項
消費者側からは契約を一切解約できないと定める条項は、上記①に該当します。
したがって、このような条項は消費者契約法違反になるため、無効です。 -
(2)消費者側の都合で必ず解約できるわけではない
消費者による契約解除を一切認めないとする条項は無効ですが、消費者側の都合でいつでも解約できるとは限りません。
消費者が事業者との契約を解約できるのは、以下のケースなどに限られます。- クーリングオフができる場合
- 特定商取引法の規定に基づき、通信販売で購入した商品を返品できる場合
- 事業者と合意したうえで解約する場合
- 契約の規定に基づいて中途解約する場合
- 事業者の債務不履行を理由に契約を解除する場合
- 錯誤、詐欺、消費者契約法などに基づいて契約を取り消す場合
これに対して、以下のようなケースでは購入者(利用者)による解約が認められない可能性が高くなるでしょう。
- 説明どおりの商品を購入して使ってみたが、満足できなかったので返品したい
- 色やサイズを間違えて購入した
- 通信販売の購入ページに「返品不可」と記載されていた
何でもかんでも解約できるわけではないことに留意しつつ、事業者と契約を締結するか否かは慎重に判断しなければなりません。
2、「解約できない」条項以外に、消費者契約が違法となるケース
消費者による解約を一切認めない条項を無効とすること以外にも、消費者契約法では消費者を保護するためのさまざまなルールが定められています。
特に、消費者にとって一方的に不利益な条項が無効となる点や、事業者によって不当な勧誘がなされた場合は契約を取り消せる点が重要です。
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(1)無効となる消費者契約の条項
消費者契約に定められた以下の条項は無効です(消費者契約法第8条~第10条)。
① 事業者の損害賠償の責任を免除する条項等
- 事業者の債務不履行または不法行為により生じた損害賠償責任を全部免除する条項
- 事業者の債務不履行または不法行為により生じた損害賠償責任の有無を、事業者が決定できるとする条項
- 事業者の故意または重大な過失による債務不履行または不法行為により生じた損害賠償責任を、一部でも免除する条項
- 事業者の故意または重大な過失による債務不履行または不法行為により生じた損害賠償責任につき、事業者がその責任の限度を決定できるとする条項
② 消費者の解除権を放棄させる条項等
※前述
③ 事業者に対し、後見開始の審判等による解除権を与える条項
- 消費者について後見、保佐または補助が開始したことだけを理由に、事業者が契約を解除できるとする条項
④ 消費者が支払う損害賠償の額があらかじめ決まっており、その額が法外である条項等
- 契約解除の場合の損害賠償額または違約金額を定める条項で、その合算した額が事業者に発生する損害額の平均を超えているもの
- 消費者が支払うこととされている料金を支払わない場合の損害賠償額または違約金額を定める条項で、その合算した額が未払いの元本に対して年14.6%をかけた金額を超えるもの
⑤ 消費者が一方的に不利益を被る条項
- 法令中の任意規定に比べて消費者の権利を制限し、または消費者の義務を重くする条項で、信義則(契約を結んだ双方が、契約内容を誠実に実行するよう求めている民法上の原則)に違反して、消費者が一方的に不利益を被るもの
⑤の一方的に不利益を被る条項の例としては、サービス(役務)を受けなくても返金を一切認めないといったような条項が考えられます。こうした条項は、サービス(役務)を提供することなく事業者に対価を受け取ることを認めるものとなって、消費者の権利を制限し、消費者の義務を重くする条項に当たる可能性があります。
サービス(役務)の内容次第では、返金を一切認めないという条項は、消費者が一方的な不利益を被るものとして無効である可能性があると言えるでしょう。 -
(2)消費者契約の取り消し事由となる事業者の勧誘行為
事業者から不当な勧誘を受けた場合、消費者は消費者契約を取り消すことができます(消費者契約法第4条)。
消費者契約の取り消し事由となる事業者の勧誘行為は、以下のとおりです。- 重要事項について不実の告知をする。
- 将来、変わるかどうかわからない不確実なことについて、断定的判断を提供する。
- 消費者にとって利益となるとのみ述べて不利益な事実を告知しない。
- 退去を求められたにもかかわらず、消費者の自宅などから退去しない。
- 退去したいと言われたにもかかわらず、消費者を勧誘場所から退去させない。
- 勧誘する目的を告げずに、退去困難な場所へ消費者を同行して勧誘する。
- 家族などの第三者に相談するため、電話などで連絡しようとした消費者を脅したり、高圧的に対応して妨害する。
- 社会経験の乏しさから抱いている社会生活上や身体の特徴等についての不安をあおり、合理的な根拠もないのに契約することで不安が解決するかのように告げて勧誘する。
- 社会経験の乏しさから抱いた恋愛などの好意の感情に付け込んで、契約をしなければ関係が破綻すると告げて勧誘する。
- 加齢などによる判断能力の低下のために、必要以上に生活の維持に不安を抱いていることに付け込み、その不安をあおり、契約しなければ生活が維持できないと告げて勧誘する。
- 霊感などを根拠に、そのままでは自身または家族の生命や健康等に生じる不利益が回避できないと不安をあおって、不利益を回避するためには契約するしかないと告げて勧誘する。
- 契約を締結する前にサービスを提供し、契約前の原状への回復を著しく困難にしたり、契約のために行ったものであるから契約しなければ損失補償を請求するなどと告げたりして勧誘する。
- 不必要に多すぎることを知りながら、その分量の物品、権利、サービスなどを購入させる。
3、不本意な契約を締結してしまった場合の解約方法
事業者の勧誘に押し切られる形で、不本意な契約を締結してしまった場合には、以下の方法によって解約を試みましょう。
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(1)クーリングオフ
消費者が事業者と締結した契約のうち、一定の類型のものについては「クーリングオフ」が認められています。クーリングオフをすれば、ペナルティーなしで契約を解除することができます。
クーリングオフが認められている契約の主な類型と、クーリングオフ期間は以下のとおりです。
契約の類型 クーリングオフができる期間 訪問販売
※キャッチセールスを含む特定商取引法所定の契約書面の受領日から8日間 電話勧誘販売 特定商取引法所定の契約書面の受領日から8日間 特定継続的役務提供
※エステ、語学教育、学習塾等、家庭教師等、パソコン教室等、結婚相談所のサービス特定商取引法所定の契約書面の受領日から8日間 個別信用購入あっせん
※信販会社による個別クレジット契約訪問販売、電話勧誘販売、特定継続的役務提供の場合、割賦販売法所定の契約書面の受領日から8日間
連鎖販売取引、業務提供誘因販売取引の場合、割賦販売法所定の契約書面の受領日から20日間連鎖販売取引
※いわゆる「マルチ商法」特定商取引法所定の契約書面の受領日から20日間 業務提供誘引販売取引
※仕事をあっせんする条件として、商品やサービスを購入させること特定商取引法所定の契約書面の受領日から20日間 クーリングオフをするためには、特定商取引法に基づくものは書面または電磁的方法によって、割賦販売法に基づくものは書面によって、それぞれ上記の期間内に事業者に対して通知を発送しなければなりません。特定記録郵便や簡易書留など、記録が残る方法で通知を行いましょう。
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(2)通信販売で購入した商品の返品
通信販売で購入した商品については、クーリングオフが認められません。
しかし原則として、返品にかかる送料などの費用を消費者が負担すれば、商品の引き渡しを受けた日から起算して8日間は返品できます(特定商取引法第15条の3第1項)。
ただし、広告や契約申し込みの画面において「返品不可」と明記されていた場合は、上記の期間内であっても返品は認められません。 -
(3)合意解約
事業者と合意すれば、理由や時期を問わず契約を解約することができます。事業者に連絡して、交渉を試みましょう。ただし、拒否される場合もあるのでご注意ください。
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(4)契約の規定に基づく中途解約
事業者と締結した契約の中には、消費者による中途解約を認める条項が定められていることがあります。
中途解約条項がある場合は、その要件を満たしたうえで所定の手続きを行えば解約できます。 -
(5)債務不履行に基づく解除
事業者が契約違反に当たる行為をした場合、消費者は債務不履行に基づいて契約を解除できます。
たとえば、契約内容に適合しない商品を引き渡された場合や、契約に定められているサービスが提供されなかった場合などには、債務不履行解除が認められます。 -
(6)消費者契約法・民法などに基づく契約の取り消し
前述のとおり、事業者によって不当な勧誘がなされた場合には、消費者は消費者契約法に基づいて契約を取り消すことができます。
また、重要な事実について勘違いをしていた場合は「錯誤」、事業者にだまされた場合は「詐欺」によって契約を取り消せる可能性があります(民法第95条第1項、第96条第1項)。
4、事業者と連絡が取れず、解約できない場合の対処法
解約するために事業者への連絡を試みたものの、つながらなかった場合や返信がなかった場合には、日付や時間帯を変えて再度連絡してみましょう。
それでも連絡がつかなければ、内容証明郵便などの記録が残る方法で、事業者に対して解約通知を送付しましょう。後で代金の支払いなどを求められた際、すでに解約したことを証明するための証拠となります。
連絡がつかない事業者から支払い済みの代金を回収したい場合は、訴訟の提起などに当たって難しい対応が求められるので、弁護士にご相談ください。
5、解約できないなどの契約トラブルを抱えた場合の相談窓口
事業者と締結した契約を解約できないなど、契約に関するトラブルを抱えている場合は、消費生活センターまたは弁護士に相談しましょう。
| 消費生活センター | 弁護士 | |
|---|---|---|
| サポートの内容 | 一般的なアドバイス、和解の仲介、仲裁など | 解決に向けた具体的なアドバイス、事業者との和解交渉、訴訟など |
| 対応する際の立場 | 中立の公的機関 | 消費者の代理人(味方) |
| 費用 | 無料 | 有料 |
消費生活センターには無料で相談できますが、あくまでも中立の公的機関として対応してもらえるに過ぎません。
これに対して、弁護士への相談や依頼は有料ですが、消費者の代理人(味方)として迅速に対応してもらえます。
どのようなサポートを求めているかによって、消費生活センターと弁護士を使い分けましょう。
6、まとめ
消費者が一切解約できない旨を定める消費者契約の条項は、違法・無効である可能性が高いです。
ただし、このような条項が無効であっても、事業者との契約の解約は無条件ではなく、一定の制限があります。解約できるかどうかを知りたいなら、消費生活センターや弁護士に相談しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、契約トラブルに関する消費者のご相談を受け付けております(有料)。不本意な契約を締結してしまった方や、契約期間の途中で解約したいと考えている方は、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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