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原状回復義務とは何か? 部屋を借りたら、どこまで負担すればいい?
監修者:萩原達也 代表弁護士(東京第一弁護士会所属)しかし、原状回復義務の範囲をめぐって、貸主と借主との間でトラブルになることがあります。貸主から高額な原状回復費用を請求された場合には、どのように対処したらよいのでしょうか。
今回は、原状回復義務とは何か、トラブルになった場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
お気軽にご相談ください。
1、原状回復義務とは何か
原状回復義務とはどのようなものなのでしょうか。以下では、原状回復義務に関する基本事項について説明します。
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(1)原状回復義務とは
原状回復義務とは、賃貸借契約終了時に賃借人が賃貸物件を借りてから生じた損傷などを回復する義務のことです。賃貸物件の退去時に大家からクリーニング費用などの名目でお金を請求されるのは、この「原状回復義務」に基づく請求になります。
賃借人の原状回復義務に関しては、退去時に賃貸人から高額な原状回復費用を請求されるなど、大きな問題になっていました。そこで、国土交通省は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下「ガイドライン」)を制定し、平成10年3月に公表しました。その後、ガイドラインは何度か改訂を繰り返し、現在では、原状回復費用の負担などをめぐるトラブルの防止と解決のために利用されています。 -
(2)賃借人が負うべき原状回復義務の範囲
賃借人に原状回復義務があるといっても、賃貸物件を入居時の状態に完全に戻さなければならないというわけではありません。賃貸物件に住んで生活していれば、通常の使用であっても時の経過とともに消耗・劣化するのは当然ですので、そのような通常損耗によって生じた部分については、賃貸人が負担すべきで賃借人は負担を負わないとする最高裁判決もありましたが、平成29年改正民法621条において、その旨明記されました。ガイドラインでも建物の損耗を「通常損耗」と「特別損耗」に分けており、賃借人は特別損耗について負担することになるとされています。
① 通常損耗
通常損耗とは、賃借人の通常の使用によって生じる損耗のことです。賃借人が普通に生活していて建物に汚損が生じたとしても、原状回復費用を負担する必要はありません。
通常損耗にあたるものとしては、以下のものが挙げられます。- 家具の設置による畳や床のへこみ
- テレビや冷蔵庫の裏にできる電気ヤケ
- 直射日光による床や壁の変色
- カレンダーなどを貼った画鋲やピンの跡
- 設備機器の寿命による故障
② 特別損耗
特別損耗とは、賃借人の通常の使用によって生じる損耗以外の損耗のことを指します。賃借人が故意や過失によって建物を汚損した場合には、特別損耗として原状回復費用を負担しなければなりません。
特別損耗にあたるものとしては、以下のものが挙げられます。- 食べ物や飲み物をこぼしてできたシミ
- 引っ越し作業などでついた傷
- タバコによる臭いやヤニ汚れ
- 落書きなどの壁紙の汚れ
- ペットがつけた傷や臭い
- 結露を放置したことで生じたカビ
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(3)特約によりガイドラインを排除することも可能
ガイドラインによると通常損耗に関する原状回復費用は、賃借人が負担する必要はありません。しかし、賃貸借契約において、通常損耗についても賃借人の負担とする特約が設けられることがあります。
このような特約は、賃借人が負担すべき範囲を具体的に明記するなどして、はっきり合意したといえる場合には、有効となり、賃借人が通常損耗に関する原状回復費用も負担しなければなりませんので注意が必要です。
2、原状回復義務でトラブルになった場合の解決法とは
原状回復義務でトラブルになった場合は、以下のような解決方法が考えられます。
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(1)ガイドラインに基づいて大家と話し合う
大家から高額な原状回復費用を請求された場合には、まずはその費用の詳細がわかる見積書などの交付を求めましょう。賃貸借契約書の特約条項や見積書を精査して、ガイドラインで賃借人の負担とされていない通常損耗も含まれている場合には、大家との話し合いにより原状回復費用の減額を求めることができる余地があります。
なお、直接大家と話し合うのが難しいという場合には、管理会社などを通じて話し合いをするとよいでしょう。 -
(2)民事調停
当事者同士の話し合いではお互いに納得できる解決に至らないときは、簡易裁判所に民事調停の申立てをするとよいでしょう。
民事調停とは、裁判のようにどちらの言い分が正しいかを決めるのではなく、お互いの話し合いで譲歩しあって争いを解決する手段です。民事調停では、一般市民から選ばれた調停委員が当事者の間に入って、裁判官とともに紛争の解決にあたっています。
民事調停では、ガイドラインが一応の解決の指針になりますので、ガイドラインに反する高額な原状回復費用を請求されている場合、調停委員が大家を説得してくれますので、実情に応じた円満な解決ができる可能性があります。
ただし、あくまでも話し合いの手続きですので、相手が応じてくれなければ調停は不成立になってしまいます。 -
(3)通常裁判
当事者同士の話し合いや民事調停での解決ができないときは、裁判によりトラブルの解決を図ることができます。裁判というとお金を請求する側が起こすものだというイメージを持たれる方も多いと思います。
しかし、裁判には金銭の支払いを求めるもの以外にも「債務が存在しないこと」の確認を求めるものあります。これを「債務不存在確認訴訟」といいます。
貸主の請求が、金額が過大で、執拗であるため、賃借人側から裁判を起こす場合には、この債務不存在確認訴訟の利用を考えてもよいでしょう。
3、原状回復義務のトラブルで弁護士ができること
原状回復義務のトラブルが生じた際に、弁護士は以下のようなアドバイスやサポートをすることができます。
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(1)特約の法的な有効性を確認できる
原状回復義務に関するトラブルは、基本的にはガイドラインに沿って解決することになりますが、賃貸借契約で通常損耗も賃借人の負担とする特約が設けられている場合には、特約の有効性が問題になります。
このような特約があったとしても、賃借人が負担すべき通常損耗の範囲がはっきりしていなかったり、賃借人に過大な負担を負わせるものである場合には、特約が無効になる可能性もあります。そのため、特約があるからといって諦めるのではなく、特約の有効性を判断するために、まずは弁護士に相談しましょう。 -
(2)話し合い、調停、裁判のうち、解決するにはどの方法が最適か判断できる
賃貸人との間で原状回復に関するトラブルが生じた場合、相手との話し合い、調停、裁判のいずれかの方法により解決を図ります。ほとんどのケースは、ガイドラインに沿って話し合いをすることで解決できますが、賃貸人の態度によっては話し合いでの解決が難しいケースもあります。
弁護士に相談をすれば、具体的な状況に応じてどのような解決方法を選択すべきかをアドバイスしてもらうことができますので、有効な解決方法を見つけることができます。 -
(3)代理人としてトラブルに対応できる
賃借人自身で原状回復に関するトラブルの対応をするのが難しい場合には、弁護士に依頼をすれば、弁護士にトラブルの対応を任せることができます。
賃貸人との交渉はすべて弁護士が対応しますので、賃借人自身の精神的な負担はほとんどありません。また、話し合いで解決が難しい場合でも調停や裁判などの手続きを使って解決を図ることができますので、ひとりで対応するよりも迅速かつ適切な解決が期待できます。
4、小規模オフィスの場合は、どうすればいい?
国土交通省が制定・公表しているガイドラインは、居住用の賃貸物件に関するものですので、事業用のオフィスや店舗などは、基本的にはガイドラインの適用対象外です。
しかし、事業用のオフィスや店舗であっても、使用状況からみて居住用の賃貸物件と変わらないこともありますので、事業用だからといって一概にガイドラインの適用対象外とするのは妥当ではありません。
実際の裁判例でも、以下のように判断してガイドラインの適用を認めています。
居住用の小規模マンションを事務所として利用しており、コピー機とパソコンのみ設置し、事務員2人だけだったという事案について、裁判所は、実態において居住用賃貸借契約と変わらないのであるから、原状回復費用はガイドラインに沿って算定すべきであると判断しました。
このように居住用か事業用かという形式的な判断ではなく、実態に即してガイドラインの適用の可否を判断する必要があります。事業用だからという理由で高額な原状回復費用を請求された場合には、まずは弁護士への相談をおすすめします。
5、まとめ
賃貸物件の退去時には、原状回復義務の範囲などをめぐって借主と貸主との間でトラブルになってしまうケースも少なくありません。基本的には、国土交通省が公表している原状回復ガイドラインに沿って解決するのが望ましいといえますが、それだけでは解決が難しいという場合には、弁護士に相談するのも有効な手段です。
原状回復に関するトラブルでお困りの方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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